アマゾン書評についてのコメント アマゾン書評についてのコメント





この小説を書いてから既にかなり時間がたっておりますが、おかげさまでいまだに細々と本は売れています。 保険業界も当時とは大分変わってきており小説と現実にずれが出てきても不思議はないので、 アマゾンの販売サイトで読者の 書評 を見てみました。

 書評をみているとそれを書いている人の人となりが想像できて面白いものです。 アクチュアリーを目指して勉強中と思われる人、転職の参考になると考えている人、 あるいは自分が悪役のモデルにされていると思い込んでいるフシのある人などいろいろです。 もちろんどう解釈しようが読者の自由なのですが、当時あの小説を書いた理由は以下のようなものです。

 私には小説を書くのが趣味の友人がいて、彼の小説の校正を手伝っていました。 その中に銀行のディーリング業務を扱ったものがあり、それを見たときにアクチュアリーの仕事を小説にする構想が頭を過ぎりました。 いままで自分が経験した中には誰でもが体験できるわけではないものもあり、これらを記憶のみで風化させるのはもったいないと思ったのです。 それに加えて他人の書いたものに難癖つけるのは簡単ということもあり、校正がてら友人の小説についていろいろ論評したわけですが、 なかでもラブシーンについては読者はもっと濃厚な表現を期待しているとコメントしてしまったのです。(単に自分が期待していただけかも)
それに対して友人から「そんなに言うなら自分で書いてみろ」と反撃をくらってしまったのです。

 そこで自分でも書いてみることにしたわけですが、当然元ネタの中心はアクチュアリーの世界で経験したものです。 自分の仕事やその周辺の出来事の記憶を元にこの小説を書いたわけですが、当然出版社の方々にもチェックしていただきました。 特にラブシーンについては約束どおり濃厚なものとしたのですが、最終的には入れるべきかやめるべきか編集者に相談しました。 その結果、あったほうがよいという答えだったので濃厚なラブシーン入りの小説となったわけです。 またアクチュアリーの本来業務(決算確認)などは一般の人が興味を持つとは思えないので書いてありません。 あくまでも保険やアクチュアリーの知識がない読者を対象としているので誰でも娯楽小説として楽しめると思います。

 しかしアマゾンの書評を見るとモデルにした物事に直接間接に関わっていたと思われる人や、自分の所属する組織体制を批判されたと感じた人もいるようで、 そういう人たちにとっては反体制小説のように見えるのかもしれません。 また、主人公が職場になじめず転職したと解釈する人もいるようですが、実際には大手損保以外の中小損保ではアクチュアリーの正会員を取得した人のほとんどは転職します。 したがって中小損保の保険計理人は全員他社からの転職組です。その理由はもちろん収入アップという目的もありますが、それ以上に中小損保では高度な数理業務は経験できないし、 必要ともされないので自分のスキルアップが望めないからです。せっかく資格を取得してもスキルを磨けなければペーパードライバーになってしまいます。
このあたりは昔から数理が基幹業務となっている生保とは事情が違うところです。

 論評の中には小説の主人公と作者である私を混同しているような記述もありますが、私自身は一匹狼でもなければ世を拗ねているわけでもありません。
作家がペンネームを使うのは作家としてのイメージと個人の生活を分けたい、あるいは作者に対する思い込みで作品のイメージを壊されるのは避けたい ということだと思いますが、私自身にしても同じことで、小説から現実の作者像をイメージされても困ります。 芭蕉の虚実皮膜論ではありませんが、事実を事実として伝えるのでは面白みがありませんし、 かといって全くの空想ですべてを作る必要もありません。 業界内部で実際にモデルにした事件と同様な経験をした方はいるでしょうから、 フィクションだといってもすべて空想の世界の物語というわけではありません。

趣味でこのHPを作っているのと同様、本質は趣味で書いた小説なので他意はありませんし、 モデルとなる事件が実際にあったとしても、それは遠い昔の話なので関係者は引退しています。 作者としてはあまり内容を深く詮索しないで娯楽小説と思っていただければそれでいいのです。

 小説を書いてからそれなりの年月が経ってモデルとなった事件のその後をみて思うのは人にとって信用が一番大事だということです。 うまく組織を泳ぎ時流に乗って権勢を誇っても誠実な生き方をしなかった人はいつかは運に見放されみじめな最後になるということです。
「奢れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし…」です。

P.S.

このコメントを書いて1ヵ月後に再びアマゾンのレビューを見たら最後のレビューが消えてました。
じつはあのレビューもコメントを書く気になった理由のひとつではありました。
フィクションであると本のあとがきにも書いてあるのにこれまでも事実だとかそうでないとか話題になりましたし、
訴訟を検討した人がいるなどという話も聞いたことがあるので、書くに至った経緯を明らかにしておいたほうがいいと思ったのです。
たぶんこのHPを見たのでしょうが、小説としてはおもしろかったとのコメントが消えたのは残念です。
おもしろいと思ってもらうのが書く一番の目的だったので、その意味では貴重なコメントでした。